一般社団法人広島市医師会臨床検査センター

Hiroshima City Medical Association Clinical laboratory

臨床検査センターインフォメーション
臨床検査センターインフォメーション

話題提供:ほんとうに熱中症ですか?

執筆  木原 康樹 (きはら やすき)
広島大学大学院医歯薬保健学研究科循環器内科学、広島大学病院心不全センター

◆キーワード:熱中症、夏の心臓病、BNP, NT-proBNP
 

冷夏の予報が2度にわたって上方修正され、まさしく猛暑を迎えています。毎日のニュースにおいても、気温上昇に伴う急病人の増加が「熱中症」として報告されています。消防庁の速報によると、本年5月27日から7月28日までの2か月間に広島県内にて救急搬送された「熱中症」の患者は423人であります(消防庁ホームページによる)。この数は昨年同期の653人に比較すると減少しており、医師会、行政、あるいはマスコミなどが一体となった啓発活動が奏功していると考えられますが、まだまだ多数であることに違いありません。また全ての熱中症患者が救急搬送されている訳ではないので、その裾野には軽症熱中症あるいは熱中症予備軍の市民が大量に存在しています。その方々が先生方のクリニックに診療を求めて大挙受診されていることが想像されます。

体温中枢が制御不能に至った重症(Heatstroke)とは異なり、軽症熱中症(Heat exhaustion)は、体液減少、循環血液量低下、それに電解質バランス異常が主体です。即ち、しんどい、だるい、食欲不振、血圧低下、多量発汗などの愁訴が前面にあり、特異的な所見に欠けます。従って、医療の原則からすると慎重に除外診断を遂行してゆく必要があります。一方、マスコミなどの毎日の報道に感化された患者は、自身が「熱中症に罹っているので治療してくれ」というような決め台詞で先生方に詰め寄る場合も少なくないのではないでしょうか。

そこで思い出していただきたいのが、夏の心臓病です。広島県地域保健対策協議会(地対協)の脳卒中・心筋梗塞予報委員会は広島市における消防局救急搬送データをもとに、天候と脳卒中や心筋梗塞の発症状況をまとめて昨年報告をいたしました。その結果によると、心不全の発症は確かに寒い季節に多いことが証明されましたが、脳卒中や急性心筋梗塞などの血管病は、現代の都市部では暑い夏も含めて年中ほとんど同じ程度に発生しているといえます。そうすると、脱水や電解質異常を伴う、いわゆる血液ドロドロ状態の夏場も、その危険は決して低くないと云えます。心臓疾患を有する患者が、熱中症予防にと塩飴や水分の過剰摂取を繰り返したために、顕性心不全となって入院したケースを私共も少なからず経験しております。そのような「似非熱中症」患者が混在しているのが現実なのでしょう。点滴・補液を施行される前に、神経学的所見、心電図とトロポニンT、それにNT Pro-BNPのチェックをどうぞよろしくお願いいたします。

 

関連記事:
心不全マーカーについて木原康樹医学部長(広島大学大学院教授)にお話をうかがってきました。
平成26(2014)年7月臨床検査センターだより 第449号(p6)